四海鏡

漫画と音楽と妖怪とトマトジュースが好きです。

服部昇大『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』絶賛発売中!

これが令和のアマビエちゃん

最近は自宅で本を作る仕事をしていても、つくったモノを売ってくれる書店は軒並み閉まってるし、特集を考えていた映像作品は軒並み上映・放映が延期してるし、もう「これは一緒に仕事してるサマンサ五郎さんへ払うギャラとかも全て放り出して作業をストップさせ、失業保険の申請でもしたほうが最終的に生活は楽になるんじゃないかなぁ……そうするとかれこれ10年近くお世話になっているサマンサ五郎さんは破滅するかもしれないけど……まあでも10年近くお世話になってるサマンサ五郎さんが破滅するだけだしな……」などと考えてしまうので、仕事の合間合間に『あさりちゃん』公式サイトで無料公開中のエピソードを読んで気を紛らわせている毎日ですが、みなさん元気にお過ごしでしょうか。

sho.jp

先日開催された、自分がガイガン山崎さんたちと登壇している地熱ナパーム倶楽部というイベントも、新型ウイルスの影響で無観客配信イベントとなってしまいました。
その開催数日前、まだイベントが配信になるかどうか不透明だった時期に、新型ウイルスの収束を願って、ネットで流行りの妖怪・アマビエの絵を自分も描いたのですけれども。

イベント配信中もアマビエの話題が出たので「私もキュートなアマビエちゃんの絵をiPadを使って描きましたが~」的なことを言ったら、隣席に鎮座ましますガイガン山崎さんが「あんなどうしようもない絵、そんなハイテクなもん使って描いてたの!?」と侮辱してきまして。
キュートなアマビエちゃんへの誹謗中傷がインターネットを通して新大久保のネイキッドロフトから全世界へ! これには温厚なアマビエちゃんも大激怒!

アマビエちゃんの呪いによって謎の奇病に罹ったガイガン山崎さんは、全身から七色の液体が吹き出すようになってしまいました。
体中から溢れ出す七色の美しい液体を絵の具の代わりに、ガイガン山崎さんは最期まで、カラフルなアマビエの絵を中野の工房で描き続けたと聞きます……。

Amazon.co.jp | 日野日出志『蔵六の奇病』


まあガイガン山崎さんが最終的に血の涙を流す亀になる話はどうでも良いのですが。
先日、新聞朝刊のコラムにもアマビエが取り上げられたとのことで、今さら(掲載されて数日たった本日)自分もネット配信版を読みまして。

mainichi.jp

妖怪研究家の湯本豪一さんによれば、アマビエは妖怪というより人魚やカッパのような「幻獣」の一種。中でも予言を残す予言獣に分類されるという。アマビエの場合は豊作・凶作と疫病。江戸の人々は、疫病が流行するたび、この絵を門口に張った。

上記の「江戸の人々は、疫病が流行するたび、この絵を門口に張った」という説明、たぶん現時点では(Wikipedia風に言うと)「出典不明」ですよね……?

その愛嬌のある姿からネットで大ブームとなって全国紙の一面コラムにも取り上げられるようになったアマビエですが、もともとすごくマイナーな妖怪……というか、そもそも「アマビコ」という妖怪について記述した瓦版が「コ」を「エ」と誤記してしまった結果なのではないかというのが現在の定説になっているハズです。
たぶん水木しげる御大が妖怪画で取り上げなければ(水木御大のアマビエ画は『図説 日本妖怪』などに収録されています)、それこそWikipediaに単独の項目なんかも立たなかったんじゃないかと。

なので、アマビエと同じように凶事を予言して「自分の姿を絵に描け」と言う妖怪・件あたりの厄除け絵は、確かに江戸時代に何度か流行ったのだろうと思うのですが、マイナーなアマビエが「疫病が流行するたび」レベルで何度も流行っていたのかというと……?

元記事の書き方だと、湯本豪一氏がアマビエという妖怪について「疫病が流行するたび、この絵を門口に張った」と説明したことについて、引用的に言及しただけのようにも読めるのですが、湯本氏がManabi JAPANというサイトで連載しているコラムのアマビエを取り上げた回のなかでは、アマビエの伝承(≒アマビ“コ”をアマビ“エ”と誤記した瓦版の記述)について、下記のように書かれているんですね。

瓦版は「アマビエ」の特徴の半分しか伝えていません。そして、残り半分の書かれていない情報こそが「アマビエ」の本質に関わる重要なものなのです。
その本質に関わる重要な内容とは、写した「アマビエ」の姿を拝んだり、門口に貼れば多くの人が死亡する悪病の大流行でも罹患することはないと告げるのです。

つまり件やアマビコや人魚(神社姫や豊年亀を含む)などの予言獣に分類される妖怪伝承の類型としては、通常「1.飢饉や疫病などの凶事を予言する」「2.自分の絵を描きなさいと伝える」「3.その絵を所持したり門口に貼れば凶事から逃れられる(なので絵が流行る)」という3つのパターンが存在するが、アマビエには3番目が存在しないということですよね。
この湯本氏の説を支持する限り、そもそも存在しない以上、新聞コラム上での言及は間違いというか、担当記者さんの早とちりではないかと思うのですが、如何でしょうか?

こういう時に「妖怪の姿形や伝承は時代によって移り変わる」みたいな言説が出てきたりするわけですが、いや別に伝承が移り変わって、令和時代のアマビエちゃんは家の門口に絵を飾るのが流行る妖怪になったりするのは良いんだけど、過去に存在した伝承(それが瓦版の誤記や説明不足で生まれたものであったとしても)を捻じ曲げて「江戸時代のアマビエちゃんも絵が門口に飾られてたよ」みたいになっちゃ駄目だろ、みたいな。
令和時代のアマビエちゃんがガイガン山崎さんの全身から七色の液体が噴出するよう呪いをかける妖怪に変貌を遂げたとしても、江戸時代のアマビエちゃんは江戸時代のガイガン山崎さんに呪いはかけてなかったと思うんですよね(江戸時代のガイガン山崎さんって誰?)。


そういえば、上で「それこそWikipediaに単独の項目なんかも立たなかったんじゃ~」と書きましたが……。
そのWikipediaの項目「アマビエ」には、アマビエが登場する創作物として『地獄先生ぬ~べ~』の名前が出されていて、下記のような記述があります。

凶暴な妖怪との戦いを描く作風の『地獄先生ぬ〜べ〜』では、原作漫画とそれを基にしたテレビアニメに、長い髪で顔を覆い隠した上背のある怖ろしい妖怪の姿で登場する。アニメでは、第36話「真夜中の(秘)レッスン!音楽室の危険な誘惑!!」(1997年〈平成9年〉3月1日放送)に登場するメインの敵キャラクターである。

新聞コラムに関しては担当記者さんの早とちりというか、まあ解釈の余地がある話なんで難しいところはあると思うんですが、こちらのWikipedia記事に関しては、完っっっ全に間違っていて。
アニメ第36話「真夜中の(秘)レッスン!音楽室の危険な誘惑!!」は、サブタイトルを見れば分かる通り、音楽室のピアノが化けた妖怪が登場する話で、アマビエまったく関係ないんですよ。そしてアニメの原作である漫画『地獄先生ぬ~べ~』にも、アマビエは出てこない……。

じゃあ『ぬ~べ~』関連作にアマビエは登場していないのかというと、じつは現在連載中の続編『地獄先生ぬ~べ~NEO』で描かれたエピソードに、メイン妖怪として登場するのです。そのエピソードというのが、単行本6巻に収録されている、第36話「アマビエVS.響子画伯」なんですよ。
つまりWikipediaの項目「アマビエ」の記述は「どうやら『ぬ~べ~』の第36話にもアマビエが登場してるらしい」という曖昧な情報から、新作として連載中の続編ではなく、何故か90年代のアニメのほうだと勘違いして書かれてしまったのではないかと。

Amazon.co.jp | 真倉翔/岡野剛『地獄先生ぬ~べ~NEO』第6巻

記事の履歴を見ると『ぬ~べ~』関連の情報は今年の3月20日に追記されたようなのですが、連載中の『NEO』は紙の単行本・電子書籍に加えて該当エピソードの単話配信が揃っているのはもちろんとして、旧作も電子書籍だけでなく紙の文庫もまだ手に入るはずですし、アニメ版にしても各サイトで配信されているようなので、簡単に入手可能な作品について語る際は、ちゃんと読むなり観るなりしてからじゃないと駄目だね……という、当たり前のお話でした。

はやく新型ウイルスを収束させて、当たり前の日常に戻してくれ、アマビエちゃ~ん!!!!