四海鏡

漫画と音楽と妖怪とトマトジュースが好きです。

服部昇大『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』絶賛発売中!

「筒井康隆は変質した」とは

ちょっと前、SF小説家の山本弘さんが、昨年の春ぐらいに炎上していた筒井康隆先生の日記における慰安婦像についての記述について記事を書いていて、なんで今ごろ……? と思ったんだけど、別に筒井先生の記述の問題そのものについて論じているというわけではなく、それをキッカケに「読んで欲しい筒井作品」を紹介するといった内容だったのでした。
shimirubon.jp

いつもの山本弘さんの、好きなものを紹介する時にノリにノッている感じが出た記事で、楽しく読めはしたんですけども。
マクラに使っている筒井先生の問題となった慰安婦像に関する記述の際、ネットで起こった「筒井康隆は変質した」的なコメントに対しての、山本弘さんの「何言ってんだ! 筒井さんは昔からずっと不謹慎だよ!」と返し方はですね、もう少し「変質」というものについて考えても良いんじゃないかと思いました。
(いや、それが記事の本筋じゃないのは重々承知していますが)

山本弘さんは筒井先生の炎上時に起こったネット上でのコメントの例として、「筒井康隆は変質した」的なものと同時に、「あんな不謹慎なことを言う作家だとは思わなかった」みたいなテイストの発言もあげられていまして。
確かに、そんな無知蒙昧の輩に対しては、まったくもって「何言ってんだ! 筒井さんは昔からずっと不謹慎だよ!」という返しで十分だと思います。無知蒙昧とは、お前らのことだぁぁぁぁ〜!!!!(デビュー初期の大槻ケンヂの完璧なモノマネで)
Amazon.co.jp | 筋肉少女帯『筋少の大車輪』

そう、山本弘さんの言う通り、筒井康隆は昔からずっと不謹慎なのは間違いないでしょう。
ただし問題になった慰安婦像に関する筒井先生の発言は、単純に冗談(ブラックジョーク)とししてスベっていただけだと思うんですよね。
それは後日、自身の記述がTwitterで反発を受けていると知った筒井先生が、やはり日記内で冗談で返した文章が、ほぼ話題にならなかったことも含めてなんですけども。


上記のことを考えると、まあ「筒井康隆は変質した」とか言う考え方そのものは(発した当人たちが、そこまで意図していなかったとしても)、別におかしくはないというか。
あながち間違っていないんじゃないかな……とも、騒動があった当時、自分は思ったりしたわけですね。


とはいえ。
この文章を書いている最中「よくよく考えれば、筒井康隆ほどの天才でも、昔からスベることはあったよな~」などと思ったのも事実であります。

たとえば、SFから離れた時期の作品ですけれど(とは言っても、もう30年近く前になるわけですが)、『文学部唯野教授』での、特定の病気を扱ったスラップスティック・ギャグの描写とか、不謹慎とか関係なく、普通にスベってませんでした……?
(『文学部唯野教授』、作品自体は好きですけどね)
Amazon.co.jp | 筒井康隆『文学部唯野教授』


ということで、今回の結論としては、「筒井康隆は変質してない(昔からたまにスベってたから)」でお願いいたします。
なんのこっちゃ。


……まあ、大晦日のガキ使での黒塗りメイクによるエディ・マーフィのモノマネ問題と、そのエディ・マーフィ自身が(米国でのマイノリティである東洋人を含めた)差別ギャグをやりまくっている――そしてそれが、あんまり面白くないものも含まれている――という話とかに関してもそうなんですけど。
hakaiya.hateblo.jp

冗談というものは前提として「不謹慎だけど良い/悪い」でなく「不謹慎でも面白い/つまらない」を考えた上で、それがアリかナシかを議論(大悪獣)していきたいものでございます。
Amazon.co.jp | 『ガメラ対大悪獣ギロン』[Blu-ray]


ちなみに私の好きな筒井作品は、短編集だと「傷ついたのは誰の心」「駝鳥」「笑うな」「赤いライオン」「客」などが収録されている『笑うな』、中編・長編だと『幻想の未来』でしょうか。
それとメイプル超合金カズレーザーさんがテレビ番組で紹介したところ、異例の増刷を重ねているという『残像に口紅を』も、やっぱり初読の際は衝撃を受けました。あと、どうしようもないオチの下世話なセルフパロディ短編「シナリオ・時をかける少女」(『串刺し教授』収録)も大好きです。ぜひ細田守ヴァージョンでも作りましょう!

上記のなかで短編「傷ついたのは誰の心」と「客」は、筒井先生ご本人の手で(!)コミカライズされているのですが、小説とはまた違った静かな不気味さがあって、かなりオススメです。
Amazon.co.jp | 筒井康隆『筒井康隆漫画全集』

ちなみに「傷ついたのは誰の心」は、蛭子能収作画のコミカライズもあり(名アンソロジー『筒井漫画涜本』収録)、筒井版と同じくヘタウマ作画での不条理劇ながらも読後感はだいぶ異なっているのが、また興味深いものですね。


ということで、今回の結論としては、「筒井康隆について文章を書くと『読んで欲しい筒井作品』の紹介記事になる」でお願いいたします。はははは。