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四海鏡

漫画と音楽と妖怪とトマトジュースが好きです。

ぬりかべって危ないんじゃないの?

世の紳士淑女の大半は「好きな妖怪は?」と聞かれれば、十中八九「やっぱり南方妖怪チンポかなぁ~!」と答えるのではないかと容易く想像できるわけですが、私はぬりかべのほうが好きですね。
とくに、江戸後期の画家・狩野洞琳由信の作と伝えられる、犬(チンやパク)と象と獅子を融合させたような、どこか愛嬌ある顔をした、三ツ目の姿の怪物として描かれたぬりかべが好きなんです。

f:id:SHIKAIKILYOU:20160105203433j:plain 「塗壁 - Wikipedia」より

Q.なんで? だってぬりかべということは付喪神なんでしょ?
A.違うよ。全然違うよ。


Q.でも、土壁の妖怪なんでしょ?
A.全然違うよ。全くは言いすぎだけど関係ないよ。

そう、ぬりかべというと、去年逝去された漫画家・水木しげる先生の代表作『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する姿を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
灰色の壁に目と手足が付いたような外見で、負傷した箇所に左官ゴテを使って土を塗りこみ治したり……と、完璧に土壁をキャラクター化した存在ですね。

f:id:SHIKAIKILYOU:20160105205846j:plain Amazon.co.jp | ぬりかべクッション

ただ、水木先生がぬりかべというキャラクターを生み出す際に参考のひとつにしたと思われる柳田國男『妖怪談義』に載っている伝承は、下記のようなもの。

夜路をあるいていると急に行く先が壁になり、どこへも行けぬことがある。
それを塗り壁といって怖れられている。


柳田國男『妖怪談義』より

鬼太郎』に出てくるモンスター然とした何者かが姿を見せたという伝承ではなく、そういった現象が起きるという「怪異」として掲載されていることがわかります。

ところで水木先生は、実際に戦時中に南方にて、この妖怪(怪異)に出会ったそうです。

私は南方であわてている時、深夜この「ぬりかべ」に出会ったが、色は白ではなく"黒"だった。
とにかく暗いところへ真っ黒なお方がいきなり現れるから、どんな形をしているのか、ただ出会った時はあわてふためくだけであった。


水木しげる『続 妖怪画談』より

『妖怪談義』に載っている文章よりも、やや「そういう現象」感が薄くなっており、「真っ黒なお方」という表現からも、『鬼太郎』でのキャラクターとしての妖怪・ぬりかべに少し近い気がします。
とはいえ、それでも実在の「壁」との接点はないわけですが。

狩野由信が描いた妖怪の絵と「ぬりかべ」という名前が対応していることが分かったのが2007年のこと。もしも、もっと昔に狩野由信がぬりかべであるとわかっていれば、水木先生が伝承と自身の体験を参考に生み出した、キャラクターとしての「ぬりかべ」の外見も、かなり違っていたかもしれません。

(実際、漫画家のありがひとし先生による児童書『妖怪天国霊界めいろブック』など、近年の妖怪を扱った本では、狩野由信・画のぬりかべをモチーフとしたイラストが描かれたりしているわけです)

もちろん、狩野由信の「ぬりかべ」が『妖怪談義』で紹介されているような怪異としての「ぬりかべ」とイコールとは限らず、たまたま名前が一緒だった別の妖怪を描いたものなのかもしれませんが、とりあえず「ぬりかべ」という妖怪が「実際の壁とリンクした妖怪」ではなく「壁に似た何かの妖怪」であることは間違いないかと。
とくに「土壁が化けたようなキャラクター」というイメージは、言ってしまえば「水木しげる以降」のものと言って良いのではないかと思うわけです。


……ところで、Wikipedia項目「妖怪」で、去年ちょっとした編集合戦みたいなことが起きたんですが、その際にノートで「イッタンモンメンやヌリカベは付喪神ですよ」という断言コメントが書き込まれてたんですよね……。

違うよ。全然違うよ。